113. 教訓の無い物語を知りなさい。癡れるように、擦れるほどに繰り返し、貴方の古典としなさい。

英題:Read the Meaningless Story and Make It Your Classic.

作曲:thus(2022)
編曲:thus(2022)
Music by thus © 2022 thus

詩:thus(2022)
Poem by thus © 2022 thus

動画:thus(2022)
―フォント:クレー One

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「 教訓 ( きょうくん ) の 無 ( な ) い 物語 ( ものがたり ) を 知 ( し ) りなさい。 癡 ( し ) れるように、 擦 ( す ) れるほどに 繰 ( く ) り 返 ( かえ ) し、 貴方 ( あなた ) の 古典 ( こてん ) としなさい。」

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 ずっと 同 ( おな ) じ 物語 ( ものがたり ) を 繰 ( く ) り 返 ( かえ ) し 読 ( よ ) んでいる。 教訓 ( きょうくん ) など 何 ( なに ) もない 退屈 ( たいくつ ) な 物語 ( ものがたり ) だ。
 そうすれば 私 ( わたし ) は、 言葉 ( ことば ) を 交 ( か ) わせるから。
 そうすることでしか 私 ( わたし ) は、その 世界 ( せかい ) を 現実 ( げんじつ ) にすることができないから。
 そうしなければ 私 ( わたし ) は、 言葉 ( ことば ) を 持 ( も ) っているということを 実感 ( じっかん ) できないから。

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  教訓 ( きょうくん ) というものがマーチャンダイズの 一連 ( いちれん ) になってからというもの、ありとあらゆるものに 意味 ( いみ ) が 先行 ( せんこう ) するようになりました。 前後 ( ぜんご ) は 逆 ( ぎゃく ) かもしれませんが、そこは 重要 ( じゅうよう ) ではありません。
  初 ( はじ ) め 私 ( わたし ) は、 大 ( たい ) して 興味 ( きょうみ ) が 無 ( な ) かったので、その 行 ( ゆ ) く 末 ( すえ ) を 長 ( なが ) きに 亘 ( わた ) って 傍観 ( ぼうかん ) していました。 然 ( しか ) しそれは 次第 ( しだい ) に、 看板 ( かんばん ) から 沁 ( し ) み 出 ( だ ) し、 名 ( な ) を 持 ( も ) ち、 思想 ( しそう ) となり、 行動 ( こうどう ) に 憑依 ( ひょうい ) し、 人格 ( じんかく ) となり、 質量 ( しつりょう ) を 持 ( も ) って 私達 ( わたしたち ) の 目 ( め ) の 前 ( まえ ) に 現 ( あらわ ) れるようになりました。 視野 ( しや ) を 蝕 ( むしば ) む 緑内障 ( りょくないしょう ) が、 蛙 ( かえる ) を 茹 ( ゆ ) でるように。

  私 ( わたし ) の 喋 ( しゃべ ) る 言葉 ( ことば ) は 大変 ( たいへん ) 奇妙 ( きみょう ) なようで、「どうして」と 幾 ( ほとん ) どの 人 ( ひと ) が 訊 ( き ) きます。 当然 ( とうぜん ) のように 理由 ( りゆう ) があるに 違 ( ちが ) いないと 疑 ( うたが ) わないようです。しかし 理由 ( りゆう ) なんて 特 ( とく ) にないので 黙 ( だま ) っていると、 奇変 ( きへん ) だ 奇変 ( きへん ) だと 揶揄 ( からか ) うように 話題 ( わだい ) になりました。 齢 ( よわい ) を 問 ( と ) わず、 種族 ( しゅぞく ) を 問 ( と ) わず、 状況 ( じょうきょう ) を 問 ( と ) わず、 素地 ( そじ ) を 問 ( と ) わず、 信条 ( しんじょう ) までもを 問 ( と ) わず、 面白 ( おもしろ ) 可笑 ( おか ) しく 話題 ( わだい ) にされました。
 それを 一度 ( ひとたび ) 目 ( め ) にしようとした 自称 ( じしょう ) 友人達 ( ゆうじんたち ) は、いつも 勝敗 ( しょうはい ) を 決 ( き ) めるしりとりを 仕掛 ( しか ) けて 来 ( き ) ました。 私 ( わたし ) の 前 ( まえ ) は 必 ( かなら ) ず「り」で 終 ( お ) わり、それが 殆 ( ほとほと ) 厭 ( いや ) で 厭 ( いや ) で 堪 ( たま ) りませんでした。それは、 特等席 ( とくとうせき ) で 誰 ( だれ ) かの 公開処刑 ( こうかいしょけい ) を 楽 ( たの ) しみに 待 ( ま ) つ 貴族 ( きぞく ) と、 一体 ( いったい ) 何 ( なに ) か 違 ( ちが ) うのでしょうか。 私 ( わたし ) の 前 ( まえ ) に 毎日 ( まいにち ) できた 行列 ( ぎょうれつ ) 、その 待 ( ま ) ち 時間 ( じかん ) 、 暇潰 ( ひまつぶ ) しに 向 ( む ) こうで 行 ( おこな ) われているしりとり、それを 私 ( わたし ) はどれだけ 渇望 ( かつぼう ) したことでしょう。 平和 ( へいわ ) とは 何 ( なん ) たるかを 無形 ( むけい ) に 辯 ( かた ) っている、「ん」で 終 ( お ) わっても 続 ( つづ ) くしりとりを、 私 ( わたし ) はどれほど 庶幾 ( こいねが ) ったことでしょう。

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 なんだか、 喋 ( しゃべ ) るのがもう 面倒 ( めんどう ) になって 了 ( しま ) って、 喋 ( しゃべ ) るのを 止 ( や ) めました。

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  止 ( や ) めた。

  已 ( や ) む 無 ( な ) く 医者 ( いしゃ ) に 掛 ( か ) かった。 次 ( つぎ ) のように 言 ( い ) われた。

 「 教訓 ( きょうくん ) の 無 ( な ) い 物語 ( ものがたり ) を 知 ( し ) りなさい。 癡 ( し ) れるように、 擦 ( す ) れるほどに 繰 ( く ) り 返 ( かえ ) し、 貴方 ( あなた ) の 古典 ( こてん ) としなさい。」

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  侖 ( おも ) った。 教訓 ( きょうくん ) とは 先行 ( せんこう ) するものではなく、 生 ( い ) きた 姿 ( すがた ) に 血 ( ち ) の 滲 ( にじ ) む 足跡 ( あしあと ) が 付 ( つ ) くように、 完成 ( かんせい ) された 人生 ( じんせい ) へ 葉 ( は ) が 落 ( お ) ちるように、 附帯 ( ふたい ) するものだったのではなかろうか。なのにいつから、 名前 ( なまえ ) に 籠 ( こも ) った 願 ( ねが ) いを 成就 ( じょうじゅ ) しなければならない 呪 ( のろ ) いに 憑 ( つ ) かれて 了 ( しま ) ったのだろう。
 と。 物語 ( ものがたり ) を 読 ( よ ) みながら 独 ( ひと ) り 言 ( ごと ) を 口 ( くち ) にしていた 自分 ( じぶん ) に 気 ( き ) づき、 驚 ( おどろ ) き 顔 ( かお ) を 上 ( あ ) げた。しりとり 勝負 ( しょうぶ ) を 仕掛 ( しか ) けて 来 ( く ) る 自称 ( じしょう ) 友人 ( ゆうじん ) は 一人 ( ひとり ) もおらず、 暦 ( こよみ ) は 何十年 ( なんじゅうねん ) も 前 ( まえ ) で 止 ( と ) まっており、 見慣 ( みな ) れない 人 ( ひと ) が 一人 ( ひとり ) だけ 横向 ( よこむ ) きに 立 ( た ) っていた。

  真烏 ( まっくろ ) いその 人 ( ひと ) は、 私 ( わたし ) の 独 ( ひと ) り 言 ( ごと ) へ「その 流 ( なが ) れるように 綺麗 ( きれい ) な 言葉 ( ことば ) を、もっと 聴 ( き ) かせておくれ」と 言 ( い ) った。

  喉 ( のど ) から 全 ( すべ ) ての 箍 ( たが ) が 決壊 ( けっかい ) し 汎濫 ( はんらん ) したように 嬉 ( うれ ) しかった。

  嬉 ( うれ ) しかった。
  嬉 ( うれ ) しかった。
 やっと、 嬉 ( うれ ) しかったのです。

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